7月から9月読んだ本
もう11月の声を聞こうと言うのに…。プロの文筆化の人でブログやHPでもタダで読める文章アップしてる人たちってほんとすごいですね。筆マメになりたい。って35歳にもなって言ってる時点でダメか…。
『黒い夏』ジャック・ケッチャム(扶桑社ミステリー文庫)…自分は5・6年前から読書傾向が変わって、読むのはノンフィクションや読み物ばっかり。ホント小説を読まなくなったがジャック・ケッチャムだけは別。「ハリー・ポッター」の新刊を待つ良い子達の様に発売日に買って、その日の夜のうちに徹夜して読む。今作も600ページ近いが、平易な文章(でもクールで歯応えあり)でスイスイ読める。今回もいつもの世界で当然面白し。1960年代(劇中マンソンファミリーの殺人がラジオニュースで流れる)の一見平和な田舎町で、退屈を持て余したボンクラの余りにもしどけない殺人に巻き込まれる人々の姿を描く。相変わらず異常な物を解剖的に冷徹に描写する手際は鮮やかで、露悪的な鬼畜系とは一線を画すダンディズムに痺れっぱなし。
『実録 田中角栄と鉄の軍団』(上中下巻)大下栄治(講談社+α文庫)…こないだの選挙で旧田中派→経世会と連綿と続いた「土建屋ガハハオヤジ」軍団による政治支配体制は実質的に崩壊した訳であるが、郵政事業のこと以外を聞かれると途端に年相応のおジイチャンになってしまう小泉首相や逆ギレしたイジメられっ子のようにエキセントリックな竹中平蔵がそれよりマシというわけじゃない。その他にも、大敗に大人気なくふてくされてた小林興起や亀井静香、夜は正常位一本槍と言ったムードの岡田克也なんかの平成の政治家たちのコクの無さはどうしたことか?田中角栄は、成績優秀でありながら家庭の事情で進学をあきらめたが飛びぬけた起業家マインドで事業の道で成功を収め政界進出。列車が運休になるような大雪でも線路を歩いて寒村を巡り歩いて、個人演説会で浪曲をがなって聴衆のハートをキャッチ。優秀な頭脳と行動力、独自の人心収攬術と資金力をタテにしたカネ離れの良さ(野党議員にまで金を配ったという)で金丸、竹下からハマコーまで続々と子分を増やし「鉄の結束」と言われる田中軍団を形成。異例の若さで総理大臣となり自分の政策を本(「日本列島改造論」今考えても凄い書名)にして出版すれば大ベストセラー。日中国交正常化という大仕事を果たし、ロッキード事件で刑事被告人となって後も自分の命令一下で手足の様に動く代議士を100人以上有してキングメーカーとして日本の政治をリモコン操作し、無罪判決と総理大臣復帰を画策しつづけたというデタラメにスケールのデカイ男。死してなお旧田中派議員や、悪口番長田中真紀子を使ってオシャレな平成の巷に、昭和の妨害電波を発しつづけるコクの深さはタダ事ではない。面白エピソード満載の本書ではあるが、アメリカに戦後復興の為に借りた資金を返済する方法を大蔵官僚の長大なレポートを捨てて勝手にまとめたってエピソードは凄いなあ。あと自動車重量税(重い自動車ほど道路を痛めるから税金が高い)も角栄の発案なのだという。しかしこんな合理的な角さんも、こと自己保身が絡むと途端に凡夫となるのはどう言う訳か。自分は40代で先輩を出しぬいて首相に成ったくせに、竹下には「十年くらい待てんのか」とジラシプレイを強要する辺りは権力の魔力というヤツか。田中軍団の日本の企業社会に通じるホモ的結合もチョット気持ち悪い。「田中角栄の金庫番」「越山会(角栄の後援会)の女王」と言われた角栄の秘書佐藤昭子と田中派議員の関係もなんだか気色悪い。議員たちがみんな佐藤女史のことを「ママ」って呼ぶんだもん。佐藤が渡辺恒三(ギンギンの中年)に「コーちゃん」と優しく呼びかけてオヤジの意向を伝えると「わかっているよ、ママ」と返す渡辺。うひ~気色悪い!
『まともな人』養老孟司(中公新書)…雑誌の連載時評をまとめた物。何を語っていてもいつのまにか昆虫採集の話になってしまう養老節は相変わらず快調。「日本の子供は一日平均6時間、テレビを見ているという調査がある。それなら文部科学省はテレビの中身を検定しているのか。」と昨今の党派的な教科書論争の不毛を訴え、「日朝首脳会談のおみやげのマツタケである。日本側で焼き捨てたという話しを聞いた。俺にくれりゃいいのに。」とのほほんと言い切ったあと「北朝鮮とは、いまだ具体的に存在する日本の戦時である」と喝破する。「私が原理主義一般を警戒するのは、それが役に立たないからではない。時にあまりにも有効だからこそである。」相変わらず凄いぜ、養老先生!日本一のリアルラッパーだ。
『本業』浅草キッド水道橋博士(ロッキング・オン)…タレント本書評集。博士の本がつまらなかろうハズも無し。ヤマタクの愛人の著書が爆笑モノ。
『誤読日記』斎藤美奈子(朝日新聞社)…これも書評集。ベストセラー本中心なのでタレント本も多し。貴乃花親方と景子夫人が出したヘンな絵本の紹介がウレシイ。『小泉純一郎写真集』にのってるという首相自作の短歌も凄い。「うるわしき いとしの君と デイトする 心ときめく 宵のひととき」「ほほよせて 好きよなんでも あげるわと ささやく君の 若さいとしき」これが短歌?ちなみに斎藤氏の感想は「だれかなんとかいってやってよ。」簡潔。
『特捜検察の闇』魚住昭(文春文庫)…前半は極貧から身を起こし苦学して特捜検事になった田中森一の人生。叩き上げの、自称「検事の土方」が上司と対立して辞職後、ヤメ検弁護士として許映中や宅見勝らの顧問として「関西の闇社会の守護神」となる顛末。後半は松本智津夫の主任弁護人であり、死刑廃止運動の運動家でもある安田好弘弁護士の逮捕と信じられないような間抜けな裁判の事実経過。安田氏の罪状は中坊「プロジェクトX」公平氏率いる住菅機構の調査を逃れる為、ある不動産会社の資産を隠したという疑い。ところが検察側の証人が実は自分の横領を隠す為にウソをついていた事を法廷の場で暴露され、検察側の証拠固めはガラガラ崩壊して行く。リッパな大学を出て、難関の国家試験を突破した検事が、チョット調べりゃすぐわかるドロボウのウソをなぜ見抜けなかったのか。杜撰な捜査や強引な起訴の裏には、国家権力に楯突く生意気なヤローはパクって締め上げてやれ(魚住氏はこんな下品な表現はしてませんよ)という意図があるのだという。いわゆる国策捜査ってやつだ。まず意図があってその後証拠を恣意的に取捨選択して、自分達の都合に良いように論理を組み立てて行く捜査手法。魚住氏はかつて『特捜検察』と言う著書でエールを送った検察の変貌振りを容赦なく暴く。そんじょそこらの法廷ミステリーよりよっぽど血が騒ぐ好著。楽しんで良いかは複雑な気分だが。
『ドキュメンタリーは嘘をつく』森達也(草思社)『放送禁止歌』森達也(知恵の森文庫)…どっちも書名のままの内容です。「ドキュメンタリーとジャーナリズムは全く相容れない物だ」と断言する森さんの凄さ。『放送禁止歌』のD・スペクターと森さんの対談は非常に面白いです。去年大阪の毎日放送が「池田小事件の被害者家族に対する配慮」から「ニュース23」でのミスター・チルドレンの歌の放送を自粛した事があった。がその歌はその後カップヌードルのCMソングになってテレビから何回も流れていた。一体何の為の自粛なのか?今テレビ局の上層部には学生運動やってたような世代も大勢いると思うが彼らの中で人生の整合性はどうなってんだろうねえ。別に彼らに対する期待も幻想もないけど。常に個人として自分の立っている場所から意見を言う森さんのような勇気ある人間はいないのだろう。


Comments
森達也さんの「A」「A2」上映のときのトークイベントは行きました。
別件逮捕、おとり捜査など、かなり強引な方法を使っていたそうです。
まるで、「権力は嘘をつく」のようですな。
それでも、小林よしのりの論では、
そういう些細なことを取り上げる者がいるから、
最も大事なことが見えにくくなる、と書いてました。
Posted by: イズミヤリュウヘイ | October 26, 2005 at 03:33 AM
「ドキュメンタリーは嘘をつく」というのは、カメラを持った時の自分の加害性・権力を自覚してるからこその見解なのでしょう。北朝鮮でも日本でもアメリカでもイラクでも中国でもフランスでも国家権力というのは「嘘つき」なものです。所詮人間がやってんだし。そんなのは昔から大人の常識だと思うのですが。
中村とうようサンがオウムに対する破防法の適用論議が起きてる時に「あんなもん破防法でもなんでも使えるモンはなんでも使って封じ込めないとダメだ」ってなこと書いてましたね。自分も「A」「A2]見て色々と考えました。個々の信者は善良な人間なのかも知れない。しかしやっぱり麻原彰行を崇拝してると言う一点に於いて、やはりオウム信者には疑問を感じる。オウムの教義と事件にはどう考えても密接な関係があるのだから「事件を反省する」こと「麻原を崇拝すること」は決定的に矛盾している。麻原を崇拝するなら、オウムの教義を信奉するなら「サリン事件は正しい」と言ってるのと一緒じゃないか。
小林よしのりさんはオウムに殺されかけたんだからなに言っても良いと思います。当事者なんだから。
オウム事件の後、キレイに無くなったオカルト番組も最近は百花繚乱ですね。超能力で不明人捜査とか、陰陽師が霊を払うとか、スピリチャルカウンセラ-だとか四柱推命だとか。麻原を持ち上げてた中沢新一も愛知万博のブレーンしたリしてるし。坂本弁護士の拉致事件の後神奈川県警は坂本さんが共産党系の警察に批判的な法律事務所勤務だったことからマジメに捜査をしていなかったと言われています。予断を捨てて真面目に捜査してればオウムの危険性に早い段階で気付いていたかもしれないのに。9・11テロの危険性を再三進言されていながら無視してたブッシュと一緒。オカルトが蔓延し警察がマヌケなままならオウム事件のような事件は何度でも起こるでしょう。個人崇拝の宗教団体が国政に甚大な影響力持ってんだから国民はだれもオウムや北朝鮮を笑えないでしょう。
Posted by: おぐら | October 28, 2005 at 11:04 PM
森さんについてのコメント、興味深く拝見させていただきました。私は森さんの本をきっかけに、オウムの事件について考えはじめた、というところがあるので、どうも、森さん意見に気持ちが偏りがちです。
他の視点からのオウムを見ることも大切だな、と改めて思いました。ありがとうございました。
Posted by: IDEA file | November 12, 2005 at 01:48 PM
コメント頂いてありがとうございます。自分は一応映像作家なので勿論森さんの仕事については文句無しに尊敬しております。麻原を崇拝してることは、イコールサリン事件の肯定だというのは、靖国に参拝することはイコール大東亜戦争の肯定だというのと実は相似形なのです。日本の常識、国益を定義してるのは誰なのか?オレは日本人じゃないのかと感じる事のみ多い昨今です。
Posted by: おぐら | November 12, 2005 at 11:54 PM